ようこそ
これは、Dvorak Advent Calendar の第14日目のエントリーです。
目次
3. Dvorak配列の欠点と対策
3.1. 直接入力時の欠点と対策
3.2. 日本語入力時の欠点と対策
3.2.1. 欠点
3.2.2. 対策
3.2.2.1. 対策上重要な点
3.2.2.2. DvorakY
3.2.2.3. ACT と ACT09
3.2.2.4. DvorakJP
次に DvorakJP を解説します。
DvorakJPは、先に取り上げた ACT ほどではないものの、Dvorak 配列に様々な拡張入力を盛り込んだ入力方式です。DvorakJP の特徴はつぎの四点にまとめられるでしょう*1。
- C を原則としてカ行用のキーとする。ただし、次にH が続くときには、C をそのまま使用する。
- 拗音を出力しやすくしている。その際、拗音化キーとしてホームポジションにあるH と Nのみを使用する。
- ann や inn を一打で入力できる「撥音拡張」を導入している。
- ai や ou を一打で入力できる「二重母音拡張」を導入している。
この DvorakJP の特徴と ACT/ACT09 のそれを比較してみます。
比較対象\拡張入力方式名 | DvorakJP | ACT/ACT09 |
---|---|---|
Cに割り当てる文字 | 原則としてK、例外的にC | K |
拗音用のキー | H と Nのみ | 各段の人さし指と薬指のキー |
ヤ行とパ行の文字を出力しやすくする | × | ○ |
促音「っ」を単打で出力する | × | ○ |
撥音拡張を導入している | ○ | ○ |
二重母音拡張を導入している | △(キー三つ分) | ○(キー五つ分) |
特殊拡張を導入している | × | ○ |
この表を見ると、DvorakJP は ACT/ACT09 と比較して覚えることが少ないように思われます。
それでは、上記の特徴四点を順に説明しましょう。
C を原則としてカ行用のキーにするということは、一見すると、先に取り上げた DvorakY や ACT/ACT09 と同様です。ただし、これは原則です。Hが続くときには例外的にCのまま使用します。要は、C H というキーストロークのときを除いて、C を K とするわけです。これにより、C H A では「ちゃ」を出力し、C A では「か (KA)」を出力することになります。
DvorakJP の最大の特徴は、拗音化するキーを二つに限定していることでしょう。そのキーとは、いわゆるホームポジションにあるH と N です。傾向として、一方の拗音化キーの近辺にあるキーは、他方の拗音化用キーと組み合わせて使用します。また、左手でキーを打鍵するときには、拗音化用キーとしてH を用います。以下、各拗音化のキーに対応する設定表を順に掲載します。わかりやすくするため、拗音化キーには★をつけました。
5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
P | R | L | |||||||
★ | N | S | |||||||
Q | J | X | W | V | Z |
5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
F | G | C (K) | |||||||
D | H | T | ★ | ||||||
B | M |
このように、DvorakJP で拗音を出力するときには、ホームポジションにあるH または Nを必ず打鍵します。
二重母音拡張と撥音拡張は、ACT/ACT09 と同様、直接的には、 AZIK と呼ばれる入力方式から受け継いだ機能です*2。ただし、もとを辿ると、SKY 配列の入力方式に行き着くものの*3、M式の影響は無いと見て良いでしょう*4。そのため、二重母音拡張は完全には取り入られていない一方、撥音拡張は全面的に取り入れられています。
二重母音拡張に関して詳しく検討してみます。DvorakJP には、二重母音拡張として、ai, ou, ei の三つしか導入されていません。これは、その三つに加えuu と ui も仕様に含めているACT/ACT09 と異なります。なぜ DvorakJP が P と Y に二重母音拡張を割り当てていないかというと、 P と Y を連打して促音「っ」を出力できるようにしたためです。ACT/ACT09 では、促音「っ」を単打で出力できますので、P と Y を連打して促音「っ」を出力する必要性はありません。よって、ACT/ACT09 では、P と Y に二重母音拡張を割り当てることができるのです。DvorakJP が二重母音拡張をとして三つしか導入していないのは、こういうことが原因だったのです。
以下、参考として、通常の母音キーの上下に二重母音拡張と撥音拡張を記載した設定表を掲載しましょう。
5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ai | ou | ei | |||||||
A | O | E | U | I | |||||
5 | 4 | 3 | 2 | 1 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
A | O | E | U | I | |||||
ann | onn | enn | unn | inn |
以上、ACT/ACT09 と比較対照しながら、DvorakJP を概説しました。Dvorak 配列の拡張入力方式という点では DvorakJP と ACT/ACT09 はたしかに共通しています。そうはいうものの、具体的な設定内容には違いが多々見受けられます。実際に各拡張入力方式を使用してみることで、その違いを体感できるでしょう*5。
次回は、Dvorak 配列と M 式、さらにはいわゆる親指シフトの三者を融合させた「蒼星」を取り上げる予定です。ただし、「蒼星」の解説ページが先月初めに完全に消失しましたので、もしかしたら説明を省略するかもしれません。
次回は、JLOD配列を取り上げます。
*1:ここでは、最新の DvorakJP 正式版のみを取り扱います。前バージョン(v0.2β)の内容には一切触れません。前バージョンからの改訂についてを参照して下さい。
*2:「英文入力との両立を維持したローマ字入力の改善について」 Improvement of Romaji Typing Method Compatible with English-Language typing、「学習の移行性を重視した拡張ローマ字入力 : AZIK」 Easy to Learn Extended Romaji Input Method : AZIK、AZIK総合解説書を参照。
*3:「日本語入力用新キー配列とその操作性評価」 Design of a Key Layout for the Roman Alphabet Besed Japanese Input System and Its Evaluationを参照。
*4:「日本文入力方式と鍵盤方式の最適化」 (ヒューマンインタフェース特集)( http://www.ykanda.jp/input/m/m.htm ) 参照。なお、DvorakJP - 日本語入力用拡張Dvorakには、M式への言及が一切見当たりません。
*5:その際、私が作成したソフトウェア DvorakJ をよろしければご使用下さい。DvorakJ には ACT09 と DvorakJP の設定ファイルを収録しています。