blechmusikの日記

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「どうして解散するんですか?」について考えてみる

はじめに

 どうして解散するんですか?というウェブサイト (why-kaisan.com)が注目されている*1。小学四年生の中村さんが作成したウェブサイトのようだ*2。中村さんは今日からtwitter上で精力的にリツイートをしている。

 このエントリーでは中村さんの問題提起を受けて「安倍首相はなぜ衆議院を解散したのか?」を整理し、それから今回の中村さんの問題提起自体についていくつか考えてみたい。

安倍首相はなぜ衆議院を解散したのか?

 今月18日に行われた安倍首相の会見記録をもとに、安倍首相が衆議院を解散した理由を調べてみよう。その会見記録は首相官邸のウェブサイトに掲載されている。

 まず安倍首相が説明する、衆議院を解散する理由を大まかに理解しておきたい。安倍首相は「今週21日に衆議院を解散いたします」と発言する直前に、「このように、国民生活にとって、そして、国民経済にとって重い重い決断をする以上、速やかに国民に信を問うべきである。そう決心いたしました。」と述べ、国民の生活や経済に影響を及ぶ重大な政策を首相が決断する際には国民に信を速やかに問うべきだと主張している。そして、衆議院解散の発言の直後には、「消費税の引き上げを18カ月延期すべきであるということ、そして平成29年4月には確実に10%へ消費税を引き上げるということについて、そして、私たちが進めてきた経済政策、成長戦略をさらに前に進めていくべきかどうかについて、国民の皆様の判断を仰ぎたいと思います。」として、首相が国民に問いたいのは、消費増税の延期やいわゆる景気条項の削除、さらには安倍政権が行ってきた経済政策と成長戦略をすすめることの是非だという。安倍首相が衆議院を解散するのは、首相は国民に信を速やかに問うべきであるという責務を負うと自認したからであって、その責務は国民の生活や経済に影響を及ぶ重大な政策を首相が決断する場合に生じるようだ。これをうけて首相は消費増税に関する政策(消費増税の延期といわゆる景気条項の削除)の是非のみならず、安倍政権の経済政策と成長戦略全般の是非を国民に問おうとする。これが、安倍首相が説明する衆議院を解散する理由である。
 こうした安倍首相が説明する衆議院を解散する理由に接すると、疑問がいくつか思いつくだろう。たとえば、首相は「速やかに国民に信を問うべき」というが、首相が国民に信を問わなければならないきまりなんてどこにあるのか、「国民生活にとって、そして、国民経済にとって重い重い決断」とは何だろうか、なぜ今の時期に衆議院を解散するのだろうか。以下でそれぞれの点について検討してみよう。

首相が国民に信を問うべく衆議院を解散することは認められるのか

 まず、首相が特定の事項について「速やかに国民に信を問うべき」であり衆議院を解散する、といった明文の規定をどこにも見つけることができないだけでなく、そもそも、衆議院が何かしら行動した場合に衆議院の解散が行われると憲法に定められていることに気づく。実は、衆議院の解散について憲法上明示的に定められているのは、(野党によって)不信任の決議案が提出されて可決された場合と、(与党によって)信任の決議案が提出されて否決された場合のみである。憲法69条には「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」と書いてある。この条文は英文の方が遙かにわかりやすい。それは"If the House of Representatives passes a non-confidence resolution, or rejects a confidence resolution, the Cabinet shall resign en masse, unless the House of Representatives is dissolved within ten (10) days."というものだ。英文の条文を少々意訳してわかりやすく表記するならば、「衆議院が<不信任の決議案を可決>又は<信任の決議案を否決>して、それから衆議院が十日以内に解散されないときには、内閣は総辞職をしなければならない。」となる。衆議院からの何かしらのアクションが引き金となった場合に衆議院の解散が行われるのである。それ以外の場合、つまり衆議院が何かしらのアクションも起こしていない、今回の衆議院の解散のような場合はどう考えればよいだろうか?これまでいろいろな考えが唱えられてきており、今では衆議院が何かしらのアクションも起こしていなくとも内閣は衆議院を解散できると考えられている。
 それでは内閣が衆議院を解散できる状況に限界はなくなってしまい問題はないのだろうかというと、安倍首相は今回の場合であれば問題ないと考えているらしい。安倍首相は以前の選挙の時点とは異なる、経済政策、成長戦略をすすめるうえで、国民の現段階の意志を問おうとしている。さらに、安倍首相は自身の主張する経済政策に反発する抵抗勢力に対抗し、国民の協力を得て政策を実施したいようだ。「私たちが進めている経済政策は賛否両論あります。そして、抵抗もある。その成長戦略を国民の皆様とともに進めていくためには、どうしても国民の皆様の声を聞かなければならないと判断いたしました。信なくば立たず、国民の信頼と協力なくして政治は成り立ちません。」と安倍首相は国民に訴えている。そのような抵抗勢力など実在するのかと疑わしく思う方にとっては、Yahoo!ニュース - 「財務省の奴ら!」安倍総理がいらだちを表す財務官僚のやり口〈週刊新潮〉 (BOOKS&NEWS 矢来町ぐるり)が参考になるだろう。消費増税をめぐり安倍政権の政策と財務省の対立は海外においても報じられており、たとえばブルームバーグは英語配信記事で、内閣参与の元財務官僚本田氏や(浜田宏一氏と山本幸三氏といった)安倍首相をサポートするリフレ派専門家と対決してきたのは財務省の官僚であったと報道している*3。ただ、この解説は英語版配信記事を読む読者にのみ伝えられるものであり、ブルームバーグの日本語配信記事(英語記事から日本語への翻訳)では、リフレ派側の元財務官僚本田氏がクルーグマンという外圧を利用したという説明が省かれているので、消費増税をめぐりリフレ派と財務官僚が抗争している構図が見えなくなってしまっている(日本語配信記事には「財務」という用語が一度もあらわれない)*4。こうして、2012年の選挙時点とは異なり国民の生活や経済に大きな影響を与える政策の実施が問題となることと、内閣が国民の信を得ることにより、反抗勢力からの圧力を撥ね除けて(法改正も含む)政策を実施しようとすることを根拠として、安倍首相率いる内閣は国民に信を問うために衆議院を解散するのである。

「国民生活にとって、そして、国民経済にとって重い重い決断」とは何だろうか

 つぎに「国民生活にとって、そして、国民経済にとって重い重い決断」というのは、消費増税の先送りと、財政再建を目論んで2017年4月に確実に増税するということだ。消費増税の先送りについては特に説明する必要はないだろう。財政再建を目論んだ増税を確実に行うというのは、「国際社会において我が国への信頼を確保し、社会保障を次世代に引き渡していく」という発言に現れているように、国債暴落により金利が急上昇するという懸念を払拭し、社会保障を安定的に提供していこうとする考えに基づいている。ちなみに、その考えを端的に批判してきたのがクルーグマンであって*5、安倍首相はクルーグマンと会合をしても、もっと露骨にいうならば外圧を利用しても*6その考えから脱却できなかった。

なぜ今の時期に衆議院を解散するのか

 安倍首相は来年度予算編成に支障が出ないように、今週解散することにした。安倍首相はこう述べている。「なぜ今週の解散か説明いたします。国民の皆様の判断を仰いだ上で、来年度予算に遅滞をもたらさないぎりぎりのタイミングであると考えたからであります。」なるほど来年度予算編成が遅れてしまうと、結果として国民の生活や経済に影響が出ることになり、衆議院解散による国民生活への不利益が大きくなりかねないだろう。
 予算編成に支障が出ない時期に衆議院を解散するとのであるから、もしも安倍政権の経済政策よりもよい経済政策が提示されれば、それは来年度の予算編成時に参考にされるかもしれない。安倍首相は経済政策に対する建設的な批判を歓迎しており、こう述べている。「今、アベノミクスに対して失敗した、うまくいっていないという批判があります。しかし、ではどうすればよいのか。具体的なアイデアは残念ながら私は一度も聞いたことがありません。批判のための批判を繰り返し、立ちどまっている余裕は今の日本にはないのです。私たちが進めている経済政策が間違っているのか、正しいのか。本当にほかに選択肢があるのかどうか。この選挙戦の論戦を通じて明らかにしてまいります。そして、国民の皆様の声を伺いたいと思います。」来年度予算編成が支障を来さない時期に衆議院の解散が行われることで、場合によっては、よりよい経済政策、成長戦略が採用される可能性が生じることになる。

小学生が twitter を使って「どうして解散するんですか?」と問うこと自体の是非

 twitter サービスは13歳未満の子供によって使用されることを原則として認めていない。twitterのプライバシーポリシーによれば、子供が保護者の同意を得ずにtwitterに個人情報を提供した場合には、twitterが当該アカウントを停止する措置を講じることになっている*7。小学生が保護者の同意を得ずにtwitterのサービスを利用しているのであれば、それはtwitterが本来想定している使い方ではない。小学生は保護者にtwitterでの情報発信を希望する旨を伝えて同意を得てから、twitterのサービスを利用しなければならない。
 他方で大人が小学生のふりをして twitter を使用していることもあるだろうから、小学生を自称するユーザーを見かけた場合には、閲覧者は慎重に対応する必要があるだろう。

「どうして解散するんですか?」と小学生が考えること

 小学生が首相官邸のウェブサイトにアクセスし、一次資料である首相の会見記録を通読するとは考えにくいので、小学生が「どうして解散するんですか?」という問いに対する答えを考えるには、衆議院を解散する理由を説明する人の話に耳を傾けなければなさそうだ。家族や学校の先生といった身近な人がそういう人だろうか。ほかにはテレビやラジオの解説に接することが考えられるだろう。図書館に行きさまざまな新聞や本に触れることでさまざまな見解を知り、それをもとに考えることも大切である。
 様々な人の話に接しても「どうして解散するんですか?」という問いの答えを見つけられなければ、今後しばらくそうした疑問を持ちながらいろいろな情報にあたるとよいと思う。