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blechmusikの日記

キー・カスタマイズ・ソフトウェア "DvorakJ" の覚え書きをはじめとして様々なことを書いています。

NPO法人「大雪りばぁねっと。」関連の事件から学ぶこと: 仮説

  1. はじめに
  2. 事件報道の概要
  3. 考察
  4. 仮説 ←ココ
  5. おわりに
  6. 追補

仮説の提示

 先の事件報道の概要と考察をもとに、関係当事者の一定の行動とその原理を抽出し、仮説を提示してみたい。
 これまで見てきた岡田氏の行動からは、山田町の助力または関与を背景として、物事に着手していく岡田氏の手堅さをうかがい知ることができる。岡田氏は単独で先行して動き出すというよりも、山田町が打ち出した理念なり青写真にしたがって、一定の道筋を辿っていた。
 そして、その助力または関与の効果と限界について、岡田氏は知悉しているように思われる。いや、模索し続けていたと言った方が適切だろうか。具体的には、補助金業務に関して(岩手県や)山田町の調査が徹底的ではないことや、大雪りばぁねっと。は山田町から運営資金を随時提供されることを推し量っていたのではないか。岩手日報2013-03-16「4億円超が補助対象外 山田のNPO問題」という報道に接すると、山田町によって綿密な財務調査が行われるのではないか、と岡田氏が疑念を抱いていたとは、到底考えにくい。
 山田町の行動からは、大雪りばぁねっと。と提携することで、地域住民に対してさまざまな支援策を講じようとする山田町の姿勢が浮かび上がってくる。
 ただ、地域住民へのサービスを重視するあまり、大雪りばぁねっと。への補助金事業の委託によって山田町の財政が悪化しうることに、山田町は目を向けてこなかった。岩手県と山田町間での緊急雇用創出事業の契約上、補助対象外の費目について、山田町は岩手県に対し補助金を返還しなければならない。原則として大雪りばぁねっと。がまず補助金を返還しなければならないわけだが、財政状況が悪化しているNPO法人に支払い能力を見込めるはずはない。既に「多重債務処理のプロ」*1である溝呂木雄浩弁護士が大雪りばぁねっと。の弁護士として動きしだしているから、他の業者への未払い金等を含む債務が遅かれ早かれ整理されるのだろう。そういうわけで、現実的には、山田町がその返還すべき分を負担する。
 岩手県は、山田町から補助金支出対象外の費目について補助金を返還されるから、その補助金返還対象の額を確定するという作業にのみ関心を向けている。山田町に対する2011-05-02の警告はあくまで意見にすぎず、山田町が判断すべきことに岩手県は積極的に関わろうとはしない。


 以上のことから提示できる仮説はというと、こういうものである。自治体は各の領分をわきまえたうえで行動する。基礎自治体としては住民に対するサービスに注意を払う一方で、自身の財政状況を悪化させうる事態に敏感だとは言いにくい。また、NPO法人と提携することで、住民へのサービス提供を充実させようとするあまり、行政の手続き上、基礎自治体が不適切な関与をすることもある。そして広域自治体は、場合によっては、基礎自治体の不適切な行動に対して苦言を呈することしかできない。
 このような状況を前提としてNPO法人が活動している。そのNPO法人と基礎自治体が手を組めば、NPO法人の活動領域は広範囲なものへと拡張されうる。もっとも、自治体からの委託業務の執行状況について綿密な調査を受けないNPO法人は、潜在的には、その委託費を不適切に支出しうるのだ。

仮説の検討

 この仮説の中で疑問が生じるのは、NPO法人との関係が深まったことで、行政の手続き上基礎自治体が不適切な関与をすることもある、という点である。たとえNPO法人との関係が深まったとしても、そのような関与が必然的に生じるとは、普通は考えにくい。もしかすると、NPO法人との関係如何にかかわらず、山田町の役所内では、このような手続きが常態化してしまっているのではないか。もしもそうだとしたら由々しきことである。逆に常態化していないとすると、山田町の役所内で何かしらの圧力が突発的に生じたのだろうか。この点は、山田町議会の議会調査特別委員会で追究されるべきである。


 この仮説が妥当だとすると、ここから導かれるのは、基礎自治体の行動次第で、委託業務に関わるNPO法人の不適切な支出が抑制されうる、ということだ。今回のような事態を繰り返さないようにするには、基礎自治体のふんばりがまず求められるのである。
 この見解に照らして震災後の状況を振り返れば、つぎのようにいえる。震災により大きな被害を受けた山田町は、住民に対するサービス提供を充実するよう努力していた。岩手県から警告と取れる助言を受けつつも、山田町は自身の信ずる理念によって政策を実施したのだ。その山田町のいわば補助ともいうべき位置についたのは、NPO法人大雪りばぁねっと。である。大雪りばぁねっと。は震災後の活動が山田町から高く評価されており、山田町の社会福祉協議会が損失を被りうるとしても、大雪りばぁねっと。への山田町としての信頼は揺るがなかった。山田町と大雪りばぁねっと。は御蔵の湯や仮設店舗の件を通じて、住民の雇用創出とともに住民へのサービス提供をいっそう充実させていく。それから、山田町は大雪りばぁねっと。を信頼しすぎたのだろうか、大雪りばぁねっと。の委託業務の執行状況について山田町が綿密に調査をしないまま、月日は流れた。今では、大雪りばぁねっと。の補助金対象外の支出のせいで、その支出額を山田町は岩手県に数億円分支払うことになりそうである。
 では、基礎自治体がNPO法人への委託業務の状況を監視するのは現実的なことだろうか。NPO法人への委託業務なのだからNPO法人を信頼するだけでよく、またNPO法の趣旨を勘案すると自治体がNPO法人を監視することは極力避けた方がよい、という見方もありうる。そうはいうものの、自治体の財政状況の悪化の結果として、住民に提供されるサービスの質が悪化するおそれは否定しえない。既存の法制度のもとでNPO法人の業務の執行状況をより効果的に監視しようとするなら、基礎自治体は信託を用いて財政的に統制を加えればよい。要するに、基礎自治体はNPO法人への委託業務の状況を監視することができ、そして監視すべきだろう。



 さらにこの仮説からは、基礎自治体とNPO法人が提携する経緯に注意が向けられるべきことも分かる。その観点からは、大雪りばぁねっと。が2011年「5月2日の時点でいろんなボランティア団体とトラブルを起こし」、山田町に「まともなNPOやボランティア団体が行けなくなってしまった」という指摘が注目される*2。斉藤議員のこの指摘よりも前に、同様のことを嘆いている人もいた*3。山田町における大雪りばぁねっと。の行動を山田町が精査していれば、このような事態はそもそも引き起こされなかったかもしれない。


仮説をこのように置くことで、大雪りばぁねっと。の問題から今後の教訓をいくつか引き出せたと思う。