読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

blechmusikの日記

キー・カスタマイズ・ソフトウェア "DvorakJ" の覚え書きをはじめとして様々なことを書いています。

NPO法人「大雪りばぁねっと。」関連の事件から学ぶこと: 考察

東日本大震災
  1. はじめに
  2. 事件報道の概要
  3. 考察 ←ココ
  4. 仮説
  5. おわりに
  6. 追補

山田町と岡田氏の関係の背景事情

 岡田氏――一連の事件の中心に居る、経歴が未だに不明の謎の人物こそ、NPO法人「大雪りばぁねっと。」の岡田栄悟代表理事である。
 事件全体の構図を理解すればするほど、岡田氏の感嘆すべき行動に気がつくだろう。岡田氏は法律に違反することなく、人脈を着実に広げていたのである。2013-01-18岩手日報委嘱記録ない役職を名刺に 山田のNPO問題」では、岡田氏が所有し使用していた名刺について、つぎのように問題視している。

 山田町が緊急雇用創出事業を委託するNPO法人「大雪(だいせつ)りばぁねっと。」(北海道旭川市、岡田栄悟代表理事)の予算使い切り問題で、震災直後、町の委嘱記録にない役職の名刺を岡田氏が使っていたことが17日、分かった。岡田氏は「町の前幹部がつくった」と主張しているが、町は確認できず、今後開かれる第三者調査委員会で検証する方針だ。
 問題の名刺は町災害対策本部と町章のほか、町災害ボランティアセンター担当主幹などの役職名が記されている。岡田氏は「2011年4月に町の前幹部につくってもらった」としている。
 ただ、町の記録では、最初に岡田氏に辞令交付したのは同年5月で、町沿岸域捜索担当主幹と町物資センター担当主幹(いずれも4月1日付)。ボランティアセンター担当主幹の記録はない。

 このように本来有していない肩書きを仮に名刺に記載していたとしても、現行法上、岡田氏の行為は私文書偽造罪に該当しない*1。そうなると、この名刺の件について、たとえ山田町の役場内に岡田氏の協力者が居るとしても、岡田氏は特別に保身に走る必要はあるまい。
 さらに時期をさかのぼると、別の名刺が岡田氏と山田町を結びつけたということが分かる。思うに問題の名刺が作成される前だろう、岡田氏が自衛隊幹部から名刺を受け取っている場を見たことで、岡田氏に信頼を寄せはじめたと、佐藤信逸現山田町長は次のように語っている*2

 異常時には、人間は都合のいい情報だけを受け入れがちになるそうです。NPOの代表理事が履歴書を提出せず、問題なことは職員も分かっていた。
 一方で彼らがあの震災の直後、現場で活動している様もみている。災害対策本部で自衛隊幹部から名刺を受け取る様子をみて「それほどの人物なのか」と信じる気になったという。

 こういう場面を大雪りばぁねっと。側が意図的に演出したか否かこそ問うべき、と考える人もいるだろう。しかし、大雪りばぁねっと。の山田町での初期の活動を考えれば、災害対策本部において自衛隊幹部と何かしら話をしても、おかしくはあるまい*3。大雪りばぁねっと。の活動内容を知っていた人なら、そのような場面が遅かれ早かれ表れていただろうと、考えつくのが普通ではないか。
 岡田氏の履歴書が提出されていなくとも、岡田氏の言動をもとに岡田氏に信頼を寄せる。山田町にとって岡田氏とは、災害時に北海道から駆けつけてくれたボランティア団体の代表理事であり、信頼できる人物なのだろう。


 山田町が岡田氏に信頼を寄せていたとして、その背景事情として重要なものは何があるか。その候補として有力だと私が思っているのは、ボランティアセンター設立当初に(2011-03/04のころだろうか)、山田町の社会福祉協議会が支払うべき経費の約650万円を大雪りばぁねっと。が立て替えていた、という疑惑である。d45611さんの以下のつぶやきから入手できる、大雪りばぁねっと。の内部資料だろうか、「NPO大雪りばぁねっと 平成23年度経費資料」という資料の最後のページを見てほしい。先述の補助金で2011年度に支払った品目の概要が、表でまとめられている。そこからは、「社会福祉協議会レンタカー立替代金」なる名目で、大雪りばぁねっと。に対し、約650万円が2012-01に入金されたことが読み取れる。「ボランティアセンター設立当初、社協〔社会福祉協議会のこと〕で車をレンタルしたが、〔社会福祉協議会には〕経費が無かったため「りばぁねっと」で立て替えていた。その分が社協から入金になっている。」*4。もしもこれが正しい情報であるならば、社会福祉協議会の経費をNPO法人が立て替え払いを行っていた、ということになる*5

 約650万円もの金銭が貸し借りされたことを知った山田町は、大雪りばぁねっと。に対して恩義を大いに感じたのではないか。大雪りばぁねっと。は、人的資源のみならず金銭面でも山田町を支援してくれる。大雪りばぁねっと。の岡田代表理事の履歴書が提出されないことなど、些末な問題にすぎない。「勝手な物を買って、それを社協に請求している」*6としても、それも些細な話だ。山田町はこうして大雪りばぁねっと。を厚く信頼するようになり、先述の使用貸借の契約まで大雪りばぁねっと。と結ぶようになった*7。このように山田町の意図を想定すれば、山田町が抱いている岡田氏への信頼感を理解できる気がする。如何だろう。
 もっとも、こういった岡田氏と山田町の関係について、情報が不足していることは否めない。発災から数ヶ月の間の、山田町と岡田氏を結びつける、その背後事情の解明が強く望まれる。また、ここでは大雪りばぁねっと。の運営に岡田氏が深く関わっているとの前提をもとに、考察を加えてきた。万が一岡田氏はそのような人物では無いとすると、大雪りばぁねっと。に関する事項と岡田氏に関する事項を厳格に分離して考えねばなるまい。


 それでは、岡田氏に対する山田町の信頼を増幅させうる出来事は無かったか、を続けて考えてみよう。2011-06-15に岡田氏が岩手県知事と懇談会で会っていたことが、私はそれにあたると思っている。宮古地区の合同庁舎で開催された、岩手県知事との意見交換会に、岡田氏が出席していたのである。岡田氏のこのような姿を見ることで、山田町は岡田氏に対する信頼をいっそう強めた。そう考えてもよいのではないか。懇談会の様子については、6月15日 - 東日本大震災被災地支援~岩手県山田町から~ NPO法人大雪りばぁねっとで写真で紹介されている。
 懇談会開催の経緯については、岩手県秘書広報室長が説明をしている*8。参加者は「中心となって活動している方々だとか、団体の代表者などの方々」であり、会の趣旨は、被災地の現状を知事が直接聞く、というものらしい。この参加者は3名おり、そのうちの一人が岡田氏であった。会の参加者は、岩手県沿岸広域振興局の推薦をもとに、秘書広報室が選定したとのことである。そして、斉藤議員と岩手県秘書広報室長とのやりとりから察するに、先述の岩手県から山田町への警告の件に関し、県沿岸広域振興局は把握していなかったように見える*9
 もっとも、岡田氏の懇談会出席が山田町に対してどのような影響を与えたのかは、山田町には資料が残されていないだろうから、公式的に明らかになることはあるまい。

リース会社活用のスキームを誰が考案したか

 リース会社を活用するということを誰が考え出したのか、リース会社に関係する報道を整理してみよう。

  • リース会社「オール・ブリッジ」社の代表を務めているのは、大雪りばぁねっと。が組織する「山田町災害復興支援隊」の副隊長である橋川大輔氏である*10
  • リース会社は2011-08-03に設立され*11、2012-04には石川県加賀市へと登記が移転された。
  • 2011年度に、大雪りばぁねっと。が無料浴場の事業を開始した際、「緊急雇用創出事業では50万円以上の財産取得ができなかった上、鉄骨をリースできる会社が無かったために設立した」*12
  • リース会社について「自前で作ってもいいか」と岡田氏が県の担当者に尋ねたら、「大丈夫」と言われたので設立した、らしい*13。岡田氏がいう県の担当者とは、県宮古地域振興センターの人なのだろうか?
  • 県宮古地域振興センターは、2011年の時点で「リースでなければ補助金を出せないという趣旨の説明はした」*14

 これらのニュース報道から浮かび上がってくるのは、岡田氏と橋川氏がリース会社の設立に率先して動いていたということと、山田町や岩手県の関与はあくまでも消極的なものにとどまっていることだ。
 しかし、このような見方は果たして適切なのだろうか?
 一体なぜリース会社が設立されたのか。新聞記事に掲載されていることが正しいと仮定しよう。岩手県や山田町などの説明によると、当初、「愛知県の企業から湯沸かし設備などの寄付の話が持ち込まれ」たことを受け*15、山田町の町有地に入浴施設を建設する話が持ち上がっていたという*16。ここでいう「など」が指す対象は明らかではないが、文脈を考慮すると、寄贈を検討していた企業のことだろうか。また、その話がどこかで「持ち上がっていた」というが、山田町の行政運営を行う役場内か、山田町の予算の議決権を有している山田町議会の議員の間か、それ以外の者の間でなのか、分からない。新聞記事を読み進めよう。「ところが、緊急雇用対策では、委託費を使って50万円を超える資産の取得はできない。少なくとも壁材費や組み立て費などを除き、鉄骨など主要構造物はリースで借りる必要があった。」そう、大雪りばぁねっと。が独自にリース会社を設立したというよりも、自治体と大雪りばぁねっと。が何らかの形で連携をし、リース会社活用の仕組みを模索していたのである。この新聞記事の説明を読めば、こう考えるのが自然なことだろう。
 震災後の山田町に入浴施設を設けることについて、岩手県と山田町は両方とも関心を有していたように私には見える。大雪りばぁねっと。の活動報告が掲載されているブログでは、つぎのように説明されている*17。自衛隊の撤退に伴い、山田町内での入浴施設の継続如何が問題となっていた。2011-07に岩手県は風呂施設のメーカーに問い合わせたものの、調達することはできなかった。後の御蔵の湯について援助する「アイシン精機」がここでも支援を提供してくれたことで、2011-08末まで、大雪りばぁねっと。が入浴施設の支援を提供することができた。こういうことである。
 実際には、7月の時点で県は山田町の入浴施設に何らかの関心を有しており、そして山田町は、実質的には遅くともおそらく7月中には山田町の町有地に入浴施設を建設することを考えていた、とみて間違いないだろう。後者についてそう明言するものはないが、リース会社の設立の時期から逆算し、また建設予定地が町有地であることを併せて考慮すると、こう考えざるを得ない。


 上記の時期や状況を勘案すると、リース会社の設立と活用については、岡田氏や橋川氏が単独で考案したというよりも、岩手県や山田町の消極的だとは断言できない関与を背景として、何者かが考案したように思われる。もっとも、これはいわば状況証拠に基づいた考察の結論にすぎないことは言うまでもない。

行政の手続きに不審な点はあるか

 大雪りばぁねっと。が関係する「御蔵の湯」と仮設店舗の建設について、行政の手続きに不審な点はあるのか。私はある、と思っている。またteam-eimeiさんも同様の視点から一連の経緯を疑問視し続けていた*18。ここからは、team-eimeiさんの問題提起をもとに、一部の手続きに焦点を当てる。詳しい話はteam-eimeiさんのブログを参照すること。
 山田駅西側仮設飲食店街の件においては、建築確認申請の申請者と時期が不適切である。仮設店舗の建築許可申請を、なぜ当時の町長が、仮設店舗開業後に行ったのだろうか。全く見当が付かない。

f:id:blechmusik2:20130316020751p:plain
 御蔵の湯の件においては、建築確認申請の時期がおかしい。町有地の使用許可が出される前に、建築確認申請が行われていた。山田町側が町有地の使用許可手続きを既に終えていたのだと、2011-09-20時点の大雪りばぁねっと。は錯覚していたのだろうか。もしもそうだとすると、そのような錯覚が生じしてしまった理由が分からない。

f:id:blechmusik2:20130316020801p:plain
 山田駅西側仮設飲食店街の件も御蔵の湯の件も、手続きの不審な点に山田町が何らかの形で関与している。これらを、大雪りばぁねっと。と山田町の密接な関係故の出来事と把握するか、それとも当事者が意図しない、単なる手続き上の不備と捉えるかは、個々人の自由に委ねられている。ただ、リース会社を用いたこれらの事業に関する手続きの流れからは、山田町が大雪りばぁねっと。と手を取り合っている様子が見えてくる。私は事態をそう把握したが、どうだろうか。

*1:また、偽造の履歴書を提出したわけでもないので、やはり私文書偽造罪にはあたらない。

*2:朝日新聞2013-02-26岩手版「(復興 山田NPOを聞く:上)町長・佐藤信逸さん 人足りず冷静さ欠いた」。厳密には岡田氏ではない人が名刺を受け取った可能性も考えられるが、ここでは岡田氏だと仮定して話をすすめる。

*3:来訪者 - 東日本大震災被災地支援~岩手県山田町から~ NPO法人大雪りばぁねっと参照。

*4:亀甲括弧内は私が補足したものである。

*5:「支払いリース料」の項目にこの入金分が記載されている理由が私には分からない。大雪りばぁねっと。は、前述の補助金から当該費用を捻出してしまったのだろうか?

*6:2013年3月5日 商工文教委員会 山田町のNPO法人問題に関する質疑大要

*7:しかし、大雪りばぁねっと。が山田町に入ってまもなく、使用貸借が開始された可能性も考え得る。

*8:2013年3月12日 予算特別委員会 秘書広報室に対する質疑(大要)

*9:この件について、岩手県秘書広報室長は斉藤氏の質問に返答していない。

*10:この組織の長は岡田栄悟氏であり、氏は部隊長という肩書きを用いている。

*11:朝日新聞2013-01-24岩手版「(復興 雇用支援を問う)能力見極めず一任 山田町、「別動隊」に重用」

*12:読売新聞2012-12-19岩手版「会員の会社に1億1450万円 山田町NPO リース料で」

*13:朝日新聞2012-12-18岩手版「建設費「繰り越した」 山田NPO「相談、了解」 岡田代表理事インタビュー」

*14:朝日新聞2012-12-19岩手版「委託費受け皿に会社 山田のNPO、入浴施設リース」

*15:山田町災害復興支援隊 : アイシン精機御一行様御蔵の湯見学にあるとおり、その企業とはアイシン精機である。

*16:朝日新聞2012-12-19岩手版「委託費受け皿に会社 山田のNPO、入浴施設リース」

*17:大雪りばぁねっと活動報告part.2物資センター運営~現在 - 東日本大震災被災地支援~岩手県山田町から~ NPO法人大雪りばぁねっと

*18:今あなたができること 個人的直接支援 @team_eimei