blechmusikの日記

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比例代表選挙における自民党支持の得票率の低さをもとに、ここ数ヶ月先の政治や経済の動向を考えてみる

2012年12月16日に開催された衆議院議員総選挙比例代表の開票結果の覚え書き - blechmusik2の日記の続きである。
今回は、先日の比例代表選挙における自民党支持の得票率の低さをもとに、ここ数ヶ月先の政治や経済の動向を考えてみよう。
ここでは、投票権を有する人が比例代表選挙で政党の政策如何によって投票行動を示したと仮定する。ただ、この仮定は比例代表選挙における投票者の実際の行動の意図とある程度乖離しているかもしれない。調査研究事業(意識調査) | 財団法人 明るい選挙推進協会の「第45回衆議院議員総選挙の実態(発行 平成22年3月)」p.59によると、前回の衆議院選挙(2009年)において調査協力者が比例代表選挙で考慮した要素は、4割前後が「党の政策・活動」について、3割強が「国全体の政治」についてであった(ただし複数回答)。これを踏まえれば政党の政策如何に力点を置きすぎるのは問題であろう。そうはいうもの、以下ではこの仮定を前提として話をすすめる。
重要なのは、自民党支持の得票率の低下を解説する菅原『世論の曲解』(2009年)の指摘だ。著者は、かつての安倍政権以後自民党が支持されなくなった理由として、都市部の人に受けのいい小泉政権時代の政策からそれ以前の古い自民党の政策に戻ったこと、投票権を有する人は前者の政策を支持する傾向にあるのに自民党としてそれを読み誤っていること、選挙対策のために対自民党の野党がまとまったこと等を挙げている。また、当時インターネット上で気勢を上げている人が見受けられたが、投票権を有する人全体から見ればごく少数なのだから彼らの影響力を過大評価すべきではないという。これらは、メディアの確証バイアスの故に一般の世論がねじ曲げられて報じられてしまっているのだ、という著者の一貫した主張の理由付けに用いられている。なるほど選挙後にこの本を読んだ人ならば、今回の衆議院選挙に関しても当てはまる説明がいくつもあるのではないかと考えるかもしれない。特定の時代の現象を説明するだけにとどまらず、普遍的な視点も提供する興味深い本である。

世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)

世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか (光文社新書)


ただ菅原の分析には欠点がいくつかあると思う。「若い人ほど、『個人の自由』という意識が高く……投票に対する倫理意識が、年齢によって大きく異なっている」*1ことや「安定した勤め先を持つ人々とそれ以外の人々の間に支持政党について違いが出ている」*2ことに関する分析が抜け落ちていること、また(インターネット上の情報に啓蒙される人々とは対照的な)一般の人々が作り出す世論に対してメディアがどれほど影響を及ぼすかに関心が払われていないことである。特に後者の点は重要だろう。選挙情報媒体の中ではテレビと新聞が多く触れるもので、有用度もそれなりに高いようである*3。そのメディアの報道によって、メディアが考える「世論」のみならず一般の世論も作り上げられると考えるのが自然なことでは無いだろうか。いわゆるバンドワゴン効果をはじめとして実証的に検証しえないと主張しているのは分からないでもないが、だからといって、一定の中立的なメディア像のみを想定して議論をすすめるのも良くないだろう。
そうはいうものの、私たちは菅原の警告を真剣に受け止めねばなるまい。確証バイアスにとらわれずに、投票結果に表れた世論をただしく受け止めよ。投票者に支持されたのは小泉改革であって古い自民党の政治なのではないから、それを見誤ってはいけないのである。
このような世論は今回の選挙の結果にどのように表れたのだろう。民主党から日本維新の会へと移ったであろう票がその世論なのだろうか。
菅原の世論分析について考えていたら、ふと、中村『経済失政はなぜ繰り返すのか――メディアが伝えた昭和恐慌』(2005)を思い出した。この本は、昭和恐慌当時のメディアが政府の経済失政についてどう伝えたのかを、実例を示しながら説明するものである。「小泉政権と浜口民政党政権とがよく似ている」(はしがき, p.iv)と考える著者は、「第4章 デフレ対策を徹底せよ!」で、デフレーション化での小泉改革がどういう意味を持っており、またそれをメディアはどう伝えたのかを端的に説明している。「第五章 政策レジームの大転換とメディア」では、インフレーションによってもたらされた「架空の景気」のせいで、倹約して貯蓄するという美しい風習が壊れ、濫費の風習が作り出されてしまうという当時のメディアの論調を提示する。「エピローグ 経済失政はなぜ繰り返すのか」では「デフレに勝ち抜く」という表現からデフレーション克服以外の含意を読み取って分析しているのだが(p.199)、なるほど「政権公約2003」の推進状況(2006)*4を見ると中村の懸念を理解できる。この中村の懸念する考えと菅原のいう世論がもしも一致するならば、世論と現在の自民党の考えはある程度衝突すると見て良いだろう*5
経済失政はなぜ繰り返すのか―メディアが伝えた昭和恐慌

経済失政はなぜ繰り返すのか―メディアが伝えた昭和恐慌


これらをまとめてやや誇張すればつぎのように言える。今回の自民党支持の得票率の低さは自民党の政策を支持していないことを意味するのだが、それは自民党が小泉政権時代の改革路線を踏襲しないせいだ。構造改革といった痛みに耐える政策を提唱しない今の自民党は、日本維新の会や民主党に遅かれ早かれ負けることになる。それは来年行われる参議院選挙で明らかになるだろう。
では、ここ数ヶ月先の政治や経済の動向はどうなるか。安倍自民党総裁の経済分野のブレーンとされる本田悦朗教授が述べるように、自民党は経済政策への取り組みを最優先とするだろう*6。経済政策以外の取り組みは状況に応じて行うであろうが*7、やはり第一に経済政策の重要性を説き続けて行動に移すだろう*8。来る日銀総裁・副総裁人事のみならず参議院選挙に至るまで経済政策の実施にできるだけ専念しようとし、多少の問題には目をつぶるのではないだろうか。これらのことがスムーズにいけば、経済政策の実際の効果が表れるまでタイムラグがあるといえ*9、半年程度の政権運営が参議院選挙において評価されると思う。言い換えると、ここ半年の経済政策がうまくいかなければ自民党は間違いなく凋落するだろう。
これに対し、野党とメディアが参議院選挙に向けて自民党への批判を幅広く展開するのは間違いあるまい。自民党が参議院選挙まで積極的な主張を控えるであろう憲法改正や*10年金改革*11原発問題*12といった争点について、野党は自民党を批判的に責めるだろうが、それは自民党が強くする主張する金融政策や財政政策においても同様だろう。特に、自民党の中では自党の金融政策に関して相異なる見解が出ているから*13、その点を追及するのも効果的だ。経済政策の効果が表れないことに腹を立て、政権運営能力を厳しく問い糾すことも考えられる。参議院選挙が近くなれば、複数の政党が一丸となって動きだすこともあろう。
参議院選挙まで日本の政治情勢と経済情勢は変化し続けるだろうが、その鍵を握っているのは自民党の経済政策で、その政策実現を左右するのは野党(とメディア)の姿勢だと思われる。これらを踏まえて世論の動向を注視したい。

*1:財団法人 明るい選挙推進協会「第45回衆議院議員総選挙の実態(発行 平成22年3月)」http://www.akaruisenkyo.or.jp/wp/wp-content/uploads/2012/07/search_45syugin.pdf p.35. see, p.40「政治意識と投票傾向」

*2:同上, p.65

*3:同上, p.76-77

*4:http://www.jimin.jp/policy/manifest/pdf/2003_kouyaku.pdf

*5:ところで、朝日新聞デジタル: - ニュース - 第46回総選挙:高成長の幻を追うな〈政権再交代〉■編集委員・原真人 は菅原の言う世論と軌を一にするのだろうか。もしもそうならば、不正確な知見からなる世論の形成過程が追究されねばなるまい。

*6:安倍自民総裁:首相再登板へ、参院選にらみ「脱デフレ」最優先に (1) - Bloomberg

*7:インタビュー:安倍政権誕生なら日銀に無制限緩和を要望=本田・静岡県立大教授 (ロイター) - Yahoo!ニュース BUSINESS(ヤフーニュースビジネス)

*8:【新政権に求める経済政策】インフレ目標政策は奇策ではない 静岡県立大 本田悦朗教授 - MSN産経ニュース朝日新聞デジタル:〈公約を問う〉値下げ競い合い、デフレの悪循環 - 政治

*9:安倍自民の勝因は争点を金融政策にしたこと。3月の日銀人事までにインフレ目標・金融緩和が効果をあげないと国会運営は厳しくなる  | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]

*10:自民党政権公約に“国防軍” 憲法改正どうなる?

*11:新政権は年金改革に斬り込めるか:日経ビジネスオンライン

*12:「原発推進」で自民が制する 立地地域の選挙区、争点ならず - 中国新聞

*13:自民ツートップの暗闘 安倍氏VS石破氏 金融政策でギクシャク 「角福」以来の因縁 - 政治・社会 - ZAKZAK