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blechmusikの日記

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私たちの防災意識を向上させる良書 『震災死 生き証人たちの真実の告白』

目次

  • 本書の内容
  • 本書の特徴
  • 本書の補足

本書の内容

これは何年後、何十年後も読み継がれるべき本だと思う。

震災死 生き証人たちの真実の告白

震災死 生き証人たちの真実の告白

本書は Diamond Online の連載「生き証人」が語る真実の記録と教訓〜大震災で「生と死」を見つめて 吉田典史をもとに、国会議員*1やメディアへの聞き取りと、取り上げた取材対象者の最近の動向等を取り込みながら「死者・行方不明者2万人の実態に迫る」*2ものである。連載をもとにしていると言っても連載順に並べているわけではなく、章のテーマに沿うよう見出しを変更した後に並び替えられている。章立てはつぎのようになっており、それぞれの章の末尾には教訓がまとめられている*3。参考に、ウェブサイト連載当時の各記事へのリンクを該当部分に挿入しておく*4

本書の特徴

本書の特徴は二つある。第一に挙げられるのは、専門職に従事している人々が震災後に取り組むべき事項を提示していることだ。それは「第○章の教訓」(○には1から5までの数字が入る)において手短にまとめられている。この部分を読めば、今回の震災を通じて明らかになった実務家のさまざまな課題について、一般人が概括的に知ることができるだろう。
もう一つの特徴は、震災による犠牲者を今後増やさないために、様々な分析結果を見せながら、住民(読者)の防災意識を向上させようとしていることである。著者は、昨年末のフジテレビの震災特番のように視聴者の感情に訴えるような内容だけを読者に披露することはない*5。震災の犠牲者は別の行動を何故取らなかったのか、他の行動を取ることができなかったのならばそれは何が原因なのかと、著者は問いを細分化しさらに問い続けるのだ。このような著者の姿勢はつぎの考えに由来している*6

3月11日の地震や津波は自然現象である限り、それを防ぐことはできなかった。だが、2万人が亡くなるという被害は、私たちの意識が招いた。

これほど多くの犠牲者が出てしまった原因を著者は私たちの意識に見いだしているのだが、ではその私たちの防災意識を向上させることは不可能なのだろうか。著者は将来の震災の被害について以下のように示唆している*7

津波や地震の実態……を伝えていかないと、人々はいつまでも津波を感覚的にとらえる。そして、恐怖を感じないがゆえに、避難が遅れるという過ちを繰り返す。

私はこの著者の問題提起に同意する。残念なことだが、Japanese People Less Likely to Evacuate During Future Tsunamis | Wired Science | Wired.com*8にあるとおり、過ちの徴候が東日本大震災以後すでにあらわれているのだ。この由々しき事態に対して何らかの策を講じないと、将来生じる震災では多数の犠牲者が出てしまうだろう。
もしも住民の避難が遅れれば、それによって他者の生命が脅かされる。言い換えると、遅れて避難した住民が、他者の生命を危険にさらすのである。このことは正しく理解されるべきだ。以前、埼玉県内の公立小中高約1250校で使われる道徳の教材について苦言を呈した*9。なぜ苦言を呈したかというと、住民の行動によっては他者の生命を脅かす危険性を生じさせてしまうことに関して、道徳教材の作成者が注意を払っていないようように見えたからである。小学校学習指導要領の第3章 道徳中学校学習指導要領の第3章 道徳高等学校学習指導要領の1款の2の内容をそれぞれふまえると、他人の生命を危険にさらさないために震災時に迅速に避難するよう児童・生徒に伝え、そして考えさせることこそ、道徳の教育の内容としてふさわしいものだといえる。このように考えさせれば、著者が防災意識の向上をつぎのように読者に訴えることは、大人のみならず児童・生徒も容易に理解できるだろう*10

震災当日、「職責」でその場を離れることができなかった人がいることも事実である。だが、私が消防団員らに話を聞くと、亡くなった団員らは死を前提に職務を遂行していたのではない。むしろ、当日の津波の実態を知らされずに水門などを急いで閉めに行ったケースが目立つ。さらにその後、逃げようとしない住民らに避難を呼びかけたりして亡くなっている。これは、町内会の会長や民生委員らも似たような事情である。
今後、多くの人が素早く高台などに避難すれば、団員、町内会の会長、民生委員らの危険度も低くなる。国会や自治体で、率先してこの人たちの死の意味を議論していくことも今後の防災に欠かせない。

「職責」という言葉の前で思考を停止することなく、それぞれの職場で何があり、どこに問題があったのか、それを今後どうするべきかと検証をしたい。「団員だから……その死はやむを得ない」と締めくくると、今後の防災の役に立たない。またどこかで同じような状況に陥り、亡くなる人が現れる。遺族も苦しむ。そもそも、死んだ人は報われないだろう。死に至った状況や理由、責任のありかなどは、地元の自治体や研究者などが関係者にヒアリングすることで検証し、今後に生かすことが必要である。

この著者の提言に私は賛成する。今後生じると言われている東海・東南海・南海連動型地震の震災はもちろんのこと、それ以外の災害に対処することを考えれば、著者のように問題を分析し検討せねばなるまい。

上記の二つの特徴をともに備えている類書は、管見の限り、一般書では存在しないので、本書は読者に物事を考えさせる良書だと評価できる。東日本大震災に関する書籍は大抵どちらか一方の特徴しか有しておらず、ときにはどちらの特徴も有さないこともあった。両方の特徴をさまざまな観点から論じるような一般書が本書に続いて刊行されるかどうかは注目されよう。

これらの特徴を総合すると、各人が防災意識を適切に有しておくべきという著者の主張が浮かび上がってくる。本書をきっかけに防災関連の文献を参照したり何かしら行動し始める。これが本書の主張に対する読者のあるべき姿勢だと私は思う。

本書の補足

最後に本書の補足として三点言及したい。一つは水門の閉鎖の時間である。「閉め終わって水門から降りたのが、午後4時頃」*11とあるが、これは午後3時頃の誤植ではないか。水門が面している両石湾といえば両石町内会長が撮影した津波の動画があるが、その動画を見る限り両石湾を津波が襲ったのは3時台だと思う。本書では津波襲来前に消防団員が水門から退避したと説明されているから、4時頃ではなくて3時頃と記述するのが正確だと思う*12
二つ目は「"想定"を与えられて安心し、命を委ねた」*13の具体的な解説である。津波防災の日シンポジウム2011 東日本大震災から学ぶ〜大災害をいかに生き延びるか〜 - ニコニコ生放送*14の片田教授の講演のうち1:25:40以降を見てほしい。釜石市鵜住居町の犠牲者とハザードマップがどのように関係しているかが説明されている。その中でも1:28:00の図を見れば片田教授が有している危機意識を容易に理解できるだろう。
もう一つの補足は、本書で描写されているさまざまなことが津波襲来直前の釜石市内の街中に実際に見られたことである。以下のDVDの1:00前後に映るコンビニ内の時計に着目してほしい。時刻は3:07頃である。釜石市の市街地に津波が入り込んできたのは3:20台前半頃なので*15、動画が撮影されたのは津波到達まで残り15分前後といった状況であった。このコンビニはどこにあるかというと、以下の地図で示す場所にある。このコンビニは津波によって文字通り壊滅的な被害を受けたのであった*16。その時間にこのコンビニ付近まで車が渋滞しているが、これは釜石駅近くの三叉路から伸びていたのではないかと思う。海からそれほど遠くない場所でこのように渋滞していたことは様々な点から検討されるべきである。また、地震発生から20分以上が経過した(津波襲来約15分前)にもかかわらず住民へのインタビューを続行した地元ケーブルテレビの撮影者は防災意識をどれほど有していたのか疑問がある。撮影者の防災への姿勢は問い糾されるべきだ。既に述べたことだが、著者により提起された問題が検討され解決されないと、著者が警告する通り、将来の震災でも同様の悲劇が生じてしまうだろう。

東日本大震災 被災ケーブルテレビ局が捉えた魂の記録映像 (秘蔵映像DVDムック)

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*1:黄川田衆議院議員と佐藤正久参議院議員

*2:本のカバーより。

*3:本書の目次は震災死 | 吉田典史 著 | 書籍 | ダイヤモンド社に掲載されている

*4:我々は大震災で「越えてはいけない一線」を越えた 今問い直すべき遺族とのつながり、そして日本人の心 ――福田逸・明治大学商学部教授のケースの記事はいくつもの部分に分けられた上で本書のいたるところに配置されている。

*5:これについては12月30日のフジテレビの特番の感想(twitterより) - blechmusik2の日記でごく簡単に言及した。住民の防災意識を向上させるという観点からすると、『遺体』も同類の書籍として位置づけられるだろう。[asin:4103054530:detail]

*6:p. 273

*7:p. 229

*8:日本語訳は「震災後、津波への警戒感が低下」その理由 « WIRED.jp 世界最強の「テクノ」ジャーナリズム

*9:埼玉県内の公立小中高約1250校で使われる道徳の教材に関する雑感

*10:pp. 272--273

*11:p. 131

*12:東日本大震災:「消防団員、海に近づかせぬ対策を」 - 毎日jp(毎日新聞)参照。

*13:pp. 258-260

*14:ニコニコ動画のプレミアム会員であれば視聴可能。

*15:NHKニュース 東日本大震災(動画)参照。

*16:津波の被害を受けてから20日がたちました。市街地の写真を撮って来ました。 - 釜石大好き お酒大好き 海が大好きスキーが大好き - Yahoo!ブログのローソンの画像を参照。