blechmusikの日記

キー・カスタマイズ・ソフトウェア "DvorakJ" の覚え書きをはじめとして様々なことを書いています。

「昭和十何年頃に」?考案されたタイプライタ用「標準配列」

文章のサルベージ

漢直ノート 日本語入力についての講演では、きゅうり配列の作者である狩野宏樹さんの文章を紹介しています。しかし、ウェブサイトが消失しているため、その文章を読むことができません。
そこで該当文書をサルベージしました。

気づいた点

狩野さんの講演録を読んでひっかかったのは、つぎの箇所です。

でその、ローマ字の改良としては、
この変な配列、標準配列というこれは、昭和十何年頃に出た、配列なんですが。

   7 5 3 1 9 0 2 4 6 8    ← 数字の配列が変。
    J L F O^ U^ W M R , .   ← O^, U^ は長音
     E I A O U H N T K S
      C Q V X P Y B D G Z

この配列はまあ、非常に変な配列なんで紹介しておきましょう。
まあこれも左手の人差指の負担が大きいことは変わってないんですけれども、
ちょっと記号の上の段の、配列が、
対称性を保とうという努力なのか、
非常に分かりにくい配列になっておりますね。


ちょっとこれは……、直観にあまりにも反しすぎるのではないかと、
私は思います。
まあ使ってみると気持ちいいのかも知れません。
こういう方式に限って、強烈なファンの方は、いるもんですからね。

Dvorak 配列を使用している人であれば、「直観にあまりにも反しすぎる」のではなくて、次の三点に気づくことでしょう。


第一に、この数字の配置こそ Dvorak が提唱した Dvorak 配列の最終形態(?)だということです。1943年(昭和18年)ですっけ?英語版の WikipediaDvorak Simplified Keyboard には、"Original Dvorak layout"という項目*1で次のように説明されています。

* The numeric keys of the classic Dvorak layout are as follows:


7 5 3 1 9 0 2 4 6 8

日本語版の WikipediaDvorak 配列の項目*2にはこの説明が見あたりません。もちろん、安岡さんはこの数字の配列を論文「キー配列の規格制定史 アメリカ編 ― ANSIキー配列の制定に至るまで」*3で既に紹介しています。
なお、この数字の配置は、Programmer Dvorakに採用されています。DvorakJ では記号多用者版にこの配列を採用しました。


第二に、日本語の文でのローマ字の頻出順が考慮されているであろうことです。それは K の位置に注目していただくとわかることでしょう。また、Dvorak 配列を使用している方であれば、P と Y を右手で入力できるという点にも気づくことでしょう。


第三に、句読点を担当する手が右手に変わっていることです。日本語をローマ字入力するときには、句読点の直前にくるのはかならず A I U E O のうちのどれかです。そうなると、句読点を右手に担当させるのは当然のことでしょう。


一瞥して、Dvorak により提示された当時の最新の研究の成果を日本語に当てはめた配列の好例だと私は思いました。ただし、日本語における連語の分析がどのように適用されたのかがちょっとわかりませんが。
この配列が日本で使用されてきていれば、ねえ。

注意点

この配列は、当然のことですが、Dvorak 配列と同様右手により負荷がかかるようになっています。ですから、Dvorak も断っていたように、左利きの人にはちょうど鏡写しにした配列を使用することをおすすめすればよいかもしれません。


E と I の位置は逆にすべきでしょう。日本語のローマ字入力では、 E の方が I よりも少ない頻出度合いのはずです。その E こそ薬指に割り当てるべきでしょう。というのも、指の相対的な強度は、 2000 年の時点での研究によれば、人差し指、中指、小指、薬指、親指の順らしいです。ワグネらの論文*4 の194ページにそう書いてあります。ただし、その研究の成果は私信でやりとりされたと書いてあるのみです。詳しい研究は、その私信の発信者である Richardson, J. がフランス語で発表しているのかもしれません。

補足

狩野さんの文章は、田中館愛橘・タイプライタ・日本文化 山 田 尚 勇 Tanakadate-Aikitu, Taipuraita, Nippon Bunka (Yamada Hisao) と併せて読むとよいでしょう。「標準配列」に長音のキーが設けられている時代的背景を理解できるでしょうから。

後日追記

「昭和十何年頃に」という狩野さんの発言には誤りがあるとの指摘を安岡さんから受けました。私もそのとおりだと思いました。コメント欄をご覧ください。
これを踏まえ、記事のタイトルに?を挿入しました。

*1:Dvorak Simplified Keyboard - Wikipedia, the free encyclopedia

*2:Dvorak配列 - Wikipedia

*3:http://kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp/~yasuoka/publications/ISCIE2004.pdf

*4:Wagner, Marc Oliver, Bernard Yannou, Steffen Kehl, Dominique Feillet and Jan Eggers. 2003. Ergonomic modelling and optimization of the keyboard arrangement with an ant colony algorithm. Journal of Engineering Design. 14(2):187-208. < http://www.informaworld.com/10.1080/0954482031000091509 >. (accessed 31 March 2009).